窓からのぞいた景色に、淡いピンクが見えた。
なんとなく嬉しくなって、十代は身一つで外に飛び出す。
森を抜け、丘を上り、頂上に着いたところで十代は足を止めた。
「すっげ〜。」
十代の視界には目一杯に咲き誇る桜があった。
まるで自らの美しさを自慢するような桜に、十代の頬は自然と緩む。
もっと見ていたくて、十代は桜の根元に腰を下ろした。
上を見上げながら、ただぼ〜っと桜を見ている。
しばらく眺めていたが、暖かな陽気に誘われるように十代は目を閉じた。
瞼の向こう側に光を感じながら、十代は目を閉じ続ける。
遠くから足音が聞こえてきても、十代は目を開けなかった。
近くまで来たその音が十代の隣で止まっても、十代は眠ったふりを続ける。
その人物は十代の様子が分かっているのかいないのか。
十代の隣に座り込んだかと思うと、手に手を重ねて力を抜いてきた。
肩がぶつかり、ぬくもりが伝わってくる。
それが心地よくて、十代は眠りの中に落ちていった。
目が覚めたとき、十代の目に入ったのは鮮やかな蒼だった。
ぼやけた頭でそれを眺めていると、翠色の目が十代を見つめてくる。
「おはよう十代。」
「おはよう。ヨハン。」
条件反射で挨拶を返した十代を見て、ヨハンは笑った。
「寝ぼけてるな。」
ヨハンの手が十代の頬を撫でてから、頭の方に移動する。
何をするつもりだろうと思って見上げれば、ヨハンは困ったような声を出した。
「動くなよ。取れないだろ?」
十代が何を?と問う前に、ヨハンの指が何かをつまみ上げる。
目の前に差し出されたそれは、淡いピンクの花びらだった。
寝ている間に付いてしまったらしい。
それならば…と思い、ヨハンの髪の毛を見れば、十代と同じように桜の花びらがついていた。
「ヨハンも付いてるぜ。」
若干ある身長差のせいで、十代は腰を浮かせなければならなかった。
立ち上がるのはなんとなく悔しいから、ヨハンに目一杯近づき、それを取る。
花びらが取れたことに満足し、それをヨハンに見せようとしたところで、十代は固まった。
目の前に居るヨハンも固まっている。
十代が擦り寄ったせいで互いの顔は、表情がよく分かるほど近づいていた。
どんどん顔が赤くなり、口をパクパクさせていれば、ヨハンの顔も赤くなっていく。
気まずい。
でも、顔をそらすのも嫌で、でも、そのままでいることもできず、十代はヨハンの胸に顔を埋めた。
香ってくるヨハンの匂いに、思わず頬を摺り寄せれば、ヨハンの腕が十代を抱き寄せてくる。
「あったかいな。」
「ああ。そうだな。」
「春…だしな。」
春になれば、桜はピンクに染まる。十代たちが赤くなったのも春だから。
十代が分かりづらい言い訳を言えば、ヨハンは笑った。
「そうだな。春だから仕方が無いな。」
その言葉と共に、十代の唇には優しい口付けが落とされた。
「押入れの片すみ」の管理人の緑豆さんより、誕生日のプレゼントをいただきました。わざわざ私のために書いていただいたようで、恐縮です。
春らしい、ふんわりと暖かくなる感じの素敵小説、幸せすぎです!